個人的にジブリで一番好きなのは「紅の豚」だと前に書いたが、最高傑作は「もののけ姫」だと思っている。
「もののけ姫」はそれまでの子供が楽しめる作品というスタイルから転換して、ハードなアクション大作に仕上がっている。
難解な映画だが、本編より遥かに長い6時間半のメイキングDVDと、400ページのメイキング本が発売されていて、これらも全部みると「もののけ姫」の深いストーリーが明らかになる。
今回は「もののけ姫」の隠された魅力について解説する。
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もののけ姫の評価・感想
最初に「もののけ姫」をみたときは、難しくてよくわからない映画だなというのが感想。
またキャラクターは「風の谷のナウシカ」の焼き直しで、和製のナウシカというイメージだった。
エボシはクシャナだし、ジコ坊はクロトワっぽいし、ダイダラボッチは巨神兵である。
でもメイキングをみると、基本的なテーマは全然違っているようだ。
アシタカとナウシカには根本的な違いがある。
ナウシカともののけ姫の違いを解説
主人公について
まずは主人公の違い。
人気者のナウシカに比べてアシタカは誰からも応援されない。
今まで僕が作ってきたものは、基本的に守るべき人間達がいて、その人間達に支持されているという人物が主人公だった。
今度は違う。守るべき何かが無いんですよ。要するに、はっきりお前さんはいらないと言われている人物なんです。
活躍しても、別に褒め称えられない。
(「もののけ姫」はこうして生まれた。)
呪いのせいで村を追い出されてしまうアシタカと、みんなから応援をうけるナウシカ。
またアシタカは国を救うヒーローではないため、立派なことは言わない。
ナウシカで難しいことを散々言ったから、一切言ってないんです。
主人公に極力立派なことを言わせなかった。これで人間いいんだろうかとか、何でそんなバカなことやるんだとかね。
(「もののけ姫」はこうして生まれた。)
そんなアシタカは「不条理な運命の中で生きる現代の子供」をモチーフにして作られているそうだ。
宮崎駿はもののけ姫を「現代の子供のための映画だ」と語っている。
作品のテーマについて
作品のテーマは「自然を破壊する人間=悪」という単純な構図ではない。
宮崎駿が掲げたテーマは「解決不能な問題を中心に据えた映画作り」。
森を破壊するエボシ率いるタタラ場には疎外、抑圧された人たちが集まり、活発に生きている。差別のない世界である。
売られた女や病人たちを保護して仕事を与えたエボシ。
タタラ場そのものが、呪いを生む源だったワケです。エボシが率いてやったことが。それが同時に女達にとっては、この世で一番大切なトコなんですよ。そういう簡単に解くことができないジレンマがある。
(「もののけ姫」はこうして生まれた。)
エボシのせいで呪いを受けたアシタカだが、逆にエボシのお陰で助かった人達もいる。
自然の側にも人間の側にもそれぞれの主張があるということ。
エボシには本編中ではまったく語られない裏設定がある。
辛苦の過去から抜け出した女。
海外に売られ、倭寇の頭目の妻となり、頭角を現し、ついに頭目を殺し、その金品を持って自分の故郷に帰ってきた。
侍の支配から自由な、強大な自分の理想の国を作ろうと考えている。
(「もののけ姫」はこうして生まれた。)
ゴンザは日本についてきた唯一の配下。
エボシはそんな苦労人なので、アシタカが不幸アピールするのが気に入らないそうだ。
賢しらに僅かな不運を見せびらかすな
(右腕の呪いを見せたアシタカに向かってエボシが放ったセリフ)
こういう設定を知るとさらに単純には割り切れないということがわかる。
もののけ姫が最高傑作な理由
宮崎駿は映画を作りながらストーリーを考える制作スタイルである。
それまでの比較的単純なストーリーの映画であればよかったが「もののけ姫」のような難しいテーマの映画になると大変だ。
メイキングではギリギリまで最後の結末が思いつかず苦悩する宮崎駿の姿が描かれている。
「終わらなかったらどうしようかと…」と弱音を吐くシーンもある。
このスタイルで、なんとか話としてまとまった事には価値があると思う。
以降の後期作品ではストーリーが破綻してしまっているものもある。
かろうじて「ストーリーが破綻せずに完成した」という点で「もののけ姫」はジブリの最高傑作だと思うのである。
そして最大のヒット作かつ問題作「千と千尋の神隠し」へと続く。
つづく
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