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炎症性粉瘤の切開法について考える

 

炎症を起こした粉瘤を診る機会はとても多い。

海外のガイドラインによると治療の基本は切開排膿である。

Incision and drainage is the recommended treatment for inflamed epidermoid cysts, carbuncles, abscesses, and large furuncles .

Clin Infect Dis. 59(2): 147, 2014

 

しかし詳しく治療法を習ったことはないように思う。

今回は炎症性粉瘤の治療についての疑問を、いくつかの文献と教科書から考えてみる。

  • 抗菌薬の有効性
  • どこを切るのか
  • どれくらい切るのか
  • いつ切るのか

 

抗菌薬は有効なのか?

 

炎症を起こした粉瘤に対して抗菌薬の治療が行われる場合がある。

まず抗菌薬を投与して、効果がなければ切開を行うという方法である。

感染性粉瘤の治療としてはまず内服治療を行い、一週間後に再来させ経過を見る。その時点で内服の効果があればそのまま経過観察とし、悪化していれば切開を考える。

てこずる外来皮膚疾患100の対処法

 

ところが粉瘤の炎症は感染ではなく、角化物に対する異物肉芽腫反応なのだそうだ(だから感染性粉瘤ではなくて炎症性粉瘤)。

When inflammation and purulence occur, they are a reaction to rupture of the cyst wall and extrusion of its contents into the dermis, rather than an actual infectious process.

Clin Infect Dis. 59(2): 147, 2014

 

そのため海外ではルーチンの抗菌薬投与は推奨されていない。

Don’t routinely prescribe antibiotics for inflamed epidermal cysts.

The overwhelming majority of red and swollen epidermal cysts (ECs) are inflamed but not infected. It is important to confirm infection before treating these cysts with antibiotics.

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

そして炎症を沈静化させるためには、抗菌薬よりもステロイドの局注の方が効果的なのだという。

Appropriate treatments for inflamed ECs include incision and drainage or an injection of corticosteroid directly into the cyst.

Ten Things Physicians and Patients Should Question

 

おそらく通常の皮膚感染症に使用されるセフェム系の抗菌薬はあまり効果がないだろう。

【関連】皮膚科医の抗菌薬の使い方

しかし抗炎症効果を持つテトラサイクリン系やマクロライド系であればどうだろうか。

Would the inflamed cyst resolve without any treatment? If the organism is not significantly contributing to the inflammation, then would use of antibiotics with known anti-inflammatory properties, such as erythromycin or tetracycline, alter the clinical course?

Arch Dermatol. 134(1): 49, 1998

 

化膿性汗腺炎のガイドラインではテトラサイクリン系が推奨されているので (Rev Endocr Metab Disord. 2016;17:343―351.)、同じような病態の感染性粉瘤にも効果はあると思う。

 

切開の方法

 

粉瘤の炎症を引き起こす主な原因は嚢腫内の角化物(粥状物)である。

そのため切開して排膿しても、嚢腫自体が残っている限り炎症が続く。

膿瘍内に粥状物がなくなれば、抗菌薬がなくても炎症は消退していくし、逆に嚢腫壁が残存する限り粥状物が産生され続けるため、排膿も続くことになる。

Visual dermatology 10(4): 400, 2011

 

切開のときは膿だけでなく、嚢腫自体も除去することが重要である。

切開というと目標が膿を出すほうに向いてしまうため、炎症のもとである粥状物や嚢腫壁に対する注意がおろそかになる恐れがある。

Visual dermatology 10(4): 400, 2011

 

切開する場所

切開のときに大事なのは「膿が出そうなところ」ではなくて、「粥状物や嚢腫壁を取り出しやすいところ」を切開すること。

嚢腫の中心と、膿がたまっている場所はズレていることが多い。

腫れている所を切開すると、嚢腫自体が残ってしまう可能性が高い。

嚢腫の中心を切開することが重要である。

切開の長さ

切開は大きくしたほうがいいという考えが一般的である。

小さいと排膿が十分にできない可能性がある。

切開が小さいと排膿が十分にできないので、やや長めに切開する必要がある。

傷・創・小外科対応の術&TIPS

 

大きく切ったほうが、嚢腫自体も摘出しやすくなる。

切開創は膿がかろうじて出るくらいでは小さく、創は自然に縮小してくるので、なるべく大きくするべきである。

排膿中、粉瘤の袋も出ると再発が防げて好都合と思われる。

次に内部を生食で洗浄すると、さらに残存する膿や粥状物が排出される。

皮膚病診療38(12)1234, 2016

 

しかしパンチメスで小さな穴を開けるだけの、ヘソ抜き療法を勧める先生もいる。

小さな穴から膿と嚢腫を取り出す方法である。

メスで切ったスリットから膿や粥状物を押し出す困難を考えると、パンチの丸い孔から揉み出し、つまみ出すほうがはるかに効率よく処置ができる。

Visual dermatology 10(4): 400, 2011

 

手技に熟練した人ならヘソ抜き療法が傷が小さくベストなように思う。

ただし切開創が小さく視野がとれない(中がよく見えない)ため、嚢腫壁を取り残してしまう可能性がある。

嚢腫を取り残してしまうと、切開部が瘻孔になり再度大きく切開し直す必要が出てくる。

そのため熟練していない人は、大きめに切開して確実に嚢腫を摘除したほうがいいと思っている。

(開腹手術と腹腔鏡手術の違いみたいなもの?)

 

切開のタイミング

 

それではどのようなタイミングで切開を行うのか。

タイミングが早すぎると排膿ができず、嚢腫さえ排出できないことがある。

そのため、ある程度柔らかくなってから切開した方がいいとされている。

切開のタイミングは、あまり早期に切開すると意外に被膜内腔が狭く、排膿はおろか粉瘤内部の粥状物さえ排出できず、炎症部位からの出血で苦労することがある。

そこで粉瘤内腔に液状物が触知できるくらい触診上患部が柔らかくなってから切開するのが効果的である。

てこずる外来皮膚疾患100の対処法

 

その場合、柔らかくなるまでの間、何もせず経過を見るのはちょっとキツイ。

セフェム系が無効ならば、テトラサイクリン系やマクロライド系を処方するのが良いのではないだろうか。

 

一方すぐに切開した方がいいという話もある。

筆者は炎症性粉瘤の全例に、可能な限り受診当日ないし数日以内にヘソ抜き療法を行うようにしている。

Visual dermatology 10(4): 400, 2011

 

なかなか統一された見解というのがないようなので難しい。

ただ、いきなり切開・・というのは患者の心の準備ができていない場合もあるため、少し待った方がいいことも多い(今すぐ切ってくれ!と言う患者もいるが…)。

 

まとめ

 

今回は炎症性粉瘤に対する日常の疑問についてまとめてみた。

よく出会う疾患でありながら、結構自己流でやっていたりもするので、文献を整理してみると役に立つのではないかと思う。

意外と一番技術が試される疾患なのかもしれない。

 

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