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皮膚科医の抗ウイルス薬の使いかた①(内服薬編)

 

以前皮膚科医の抗菌薬の使い方についてまとめた。

フロモックスを使ってはいけない理由【皮膚科医の抗菌薬の使い方①】
自分が皮膚科医になったときは、抗菌薬はフロモックスやメイアクトなどを頻用していたんだけど、最近は使わないほうがいいという流れになっている。 結論を申しましょう。もはや、医療界はもう、経口三世代セフェムと決別すべきです。 ID...

 

今回は抗ウイルス薬の使い方についてまとめてみたい。

 

皮膚科で使用するのは主に抗ヘルペスウイルス薬である。

ヘルペスウイルスには8種類あるが(EBウイルスやサイトメガロウイルスもヘルペスウイルスの一種)、一般にヘルペスというと単純ヘルペスと帯状疱疹のことをさす。

抗ヘルペスウイルス薬は単純ヘルペスと帯状疱疹に対して効果を発揮する薬剤である。

剤型には外用薬、内服薬、注射薬の3種類がある。

それぞれの薬剤の種類を表にまとめてみた。

ヘルペスウイルス感染症に対しては基本的に内服薬を使用する。

まず内服薬について、以下のポイントに沿って詳しく見ていきたい。

 

  1. 投与量が違う理由
  2. 制限時間
  3. 発症前治療
  4. 予防内服
  5. どの薬剤を使うか?
  6. 薬価の比較

 

投与量が違う理由

 

まず抗ウイルス薬の投与量は、単純ヘルペスと帯状疱疹とでは違っている。

 

バラシクロビルの投与量

  • 単純ヘルペス:1日1000mg
  • 帯状疱疹:1日3000mg

 

帯状疱疹の投与量が多いのは、症状が強いからだと思われがちである。

しかし本当の理由は抗ウイルス薬に対する感受性。

水痘・帯状疱疹ウイルスは単純ヘルペスウイルスより薬剤感受性が低いため(1/5~1/10)、高い血中濃度が必要になるからである。

 

IC50

  • 単純ヘルペスウイルス1型:0.01-2.7
  • 単純ヘルペスウイルス2型:0.01-4.4
  • 水痘帯状疱疹ウイルス:0.17-26

(Drugs. 47(1): 153, 1994 PMID: 7510619)

 

投与開始までの制限時間

 

抗ウイルス薬を使う上で重要なポイントは、殺菌作用はなく静菌作用を持つ薬だということ。

ウイルスを殺す効果はなく、ウイルスの増殖を抑制するだけだから、ウイルスの増殖が終わった後に投与しても意味がない。

 

ウイルスの増殖中に投与を開始できれば、増殖を抑制して最終的なウイルス量を減らすことができる。

 

しかしウイルスの増殖が終わった後に開始しても、ウイルス量は変わらない。

 

そのため、できるだけ早く投与を開始する必要がある。

単純ヘルペスは皮疹出現から24時間以内、帯状疱疹は皮疹出現から72時間以内の投与が推奨されている。

 

投与開始までの制限時間

  • 単純ヘルペス:皮疹出現から24時間以内
  • 帯状疱疹:皮疹出現から72時間以内

 

単純ヘルペス(性器ヘルペス)

Effective episodic treatment of recurrent herpes requires initiation of therapy within 1 day of lesion onset.

CDCガイドライン2015(PMID: 26042815)

 

帯状疱疹

Controlled trials have initiated treatment within 72 hours of onset of the rash, and treatment is recommended to start within this interval and as early as possible.

N Engl J Med. 369(3): 255, 2013 (PMID: 23863052)

 

ただし帯状疱疹の72時間以内というのは、ウイルス学的に証明された数値ではないようだ。

そのため72時間以降でも、皮疹の新生が続いている場合は投与を行う。

Many experts recommend that if new skin lesions are still appearing or complications of herpes zoster are present, treatment should be initiated even if the rash began more than 3 days prior.

N Engl J Med. 369(3): 255, 2013 (PMID: 23863052)

 

発症前治療

 

ヘルペスは皮疹が出現する前に、違和感や痛みなどの前駆症状が出現することが多い。

 

前駆症状の出現率

  • 単純ヘルペス:85%(臨床医薬 29(2): 137, 2013.)
  • 帯状疱疹:70~80%(PMID: 17143845)

 

それでは皮疹が出現する前の前駆症状の時点で抗ウイルス薬を開始したらどうだろうか。

単純ヘルペスの発症前治療

単純ヘルペスではその効果が実証されている。

前駆症状の時点で投与を開始したら、24%の症例で水疱の出現を抑制することができる。

(Sex Transm Infect. 78(6): 435, 2002 PMID:12473805)

 

特に前駆症状の出現から6時間以内に内服を開始したほうが効果が高いようだ。

 

<口唇ヘルペス水疱出現抑制率>

  • 6時間以内:30%
  • 6~12時間:19%
  • 12時間以上:18%

(Sex Transm Infect. 78(6): 435, 2002 PMID:12473805)

 

そこで薬をあらかじめ処方しておく方法が保険で認められている。

 

帯状疱疹の発症前治療

それでは帯状疱疹ではどうだろうか。

効果はあるんじゃないかと思うが、実際はエビデンスがなく非推奨である。

皮疹のない時期から抗ウイルス薬を使用することの有用性を示す明確な根拠はない。

臨床医薬28(3): 161, 2012

 

この理由は帯状疱疹の前駆症状がわかりにくいからである。

(単純ヘルペスの場合は何度も再発するので、前駆症状がわかりやすい。)

 

帯状疱疹の前駆症状を疑う患者57人の中で、実際に帯状疱疹だったのは2人(3.5%)だけだったという論文もあるようだ。

(J Infect. 39(3): 209, 1999 PMID: 10714797)

片側性の痛みが出現する疾患はたくさんあるため、帯状疱疹の前駆症状だと確定できる可能性は低い。

 

予防内服

 

再発を繰り返す単純ヘルペスの場合(年6回以上)は予防内服として再発抑制療法が行われる。

バラシクロビルを毎日1錠ずつ内服する方法である。

これによって再発を大きく抑制することができる。

 

<再発抑制療法の効果>

平均再発頻度:年9.5回→年1.3回

(性感染症学会雑誌23(1): 108, 2012)

 

さらに2年間予防内服を行うことによって、中止後も予防効果が持続するようだ。

 

  • 開始前平均再発回数:11.1回
  • 中止後平均再発回数:3.5回

(臨床皮膚科 56(5), 118-121, 2002)

 

薬剤間の比較

 

次に薬剤の選択の参考になる薬剤間の比較のデータをまとめてみる。

 

効果

薬の効果に優劣はあるのだろうか。

帯状疱疹についてのデータをまとめてみる。

 

まずバラシクロビルとファムシクロビルの有効性は同等。

■バラシクロビル=ファムシクロビル

(Arch Fam Med. 9(9): 863, 2000 PMID: 11031393)

 

次にアシクロビルは、バラシクロビルとファムシクロビルよりも若干有効性が低いというデータがある。

■バラシクロビル≧アシクロビル

(Antimicrob Agents Chemother. 39(7): 1546, 1995 PMID: 7492102)

■ファムシクロビル≧アシクロビル

(Int J Antimicrob Agents. 4(4): 241, 1994 PMID: 18611615)

 

またアメナメビルは最近発売された新しい抗ヘルペスウイルス薬。

発売前の臨床試験ではバラシクロビルとの同等の効果が示されている。

■バラシクロビル=アメナメビル

(帯状疱疹患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験(M522101-J01試験))

 

まとめるとバラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルの効果は同等。

アシクロビルはこれら3剤とくらべて効果が劣る可能性がある。

 

バラシクロビル=ファムシクロビル=アメナメビル≧アシクロビル

 

というわけでアシクロビル以外の薬剤を選択するのがよいだろう。

(ちなみに単純ヘルペスでもバラシクロビルとファムビルは効果同等というデータあり 臨床医薬. 29(3): 285, 2013)

 

副作用

抗ヘルペスウイルス薬は、他の抗ウイルス薬に比べて重篤な副作用は少ない。

しかし注意すべきなのは腎障害である。

アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルの3剤は腎排泄の薬剤。

そのため腎機能に応じて、慎重に投与量を決定する必要がある。

特に高齢者は、痛みに対してNSAIDsを併用すると腎障害のリスクは跳ね上がる。

 

65歳以上の患者の腎障害リスク(バラシクロビル)

  • 抗ウイルス薬のみ:OR 4.6(4.1-5.2)
  • 抗ウイルス薬+NSAIDs:OR 26.0(19.2-35.3)

(Pharmacoepidemiol Drug Saf. 23: 1154, 2014 PMID: 24788910)

 

腎障害が起こり、薬剤が排泄されずに血中濃度が上がると、中枢神経障害(アシクロビル脳症)を起こす。

腎障害+意識障害で救急搬送というパターンをしばしば経験するので注意が必要だ。

 

一方アメナメビルは胆汁排泄の薬剤である。

そのため腎障害のリスクは低い可能性があり、第一選択薬になりつつある。

 

  • 腎排泄:アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル
  • 胆汁排泄:アメナメビル

 

価格

最後に価格について比較してみたい。

バラシクロビルとファムシクロビルにはジェネリックがあるが、アメナメビルは先発品のみ。

 

薬価(1錠)

  • バラシクロビル:(先発品)354.2円、(ジェネリック)131.2円
  • ファムシクロビル:(先発品)373.9円、(ジェネリック)138.5円
  • アメナメビル:(先発品)1469.7円

 

帯状疱疹治療の薬剤費

バラシクロビル42錠:(ジェネリック)約5500円

ファムシクロビル42錠:(ジェネリック)約5800円

アメナメビル14錠:(先発)約20000円

 

アメナメビルは3割負担でも約7000円で、かなり高額になってしまうことに注意が必要である(バラシクロビルなら1800円くらい)。

 

まとめ

 

今回は内服抗ヘルペスウイルス薬についてまとめてみた。

次回は外用薬と注射薬について解説する。

つづく

皮膚科医の抗ウイルス薬の使いかた②(外用薬・注射薬編)
前回のつづき 前回は内服抗ヘルペスウイルス薬について解説した。 今回は外用薬と注射薬についてまとめてみる。 ①外用薬 外用薬は市販されていて、薬局でも購入できる。 それで...

 

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