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原因は何ですか?と聞きたくなる原因

 

診療中に聞かれることが多い質問の一つに「原因は何ですか?」がある。

しかしこれを聞かれると困ってしまう。

ほとんどの皮膚疾患が原因不明だからである。

 

湿疹すらも原因がはっきりするのは稀。

最も多いのは「原因がわからない湿疹反応」である。

要するに「他の分類に入らない、原因がわからない湿疹反応」なのです。困ったことに、外来ではこの状態で来院する小児が最も多いのです。

診療所で診る小児の皮膚疾患

 

進化心理学シリーズ第4弾。

今回は原因を知りたくなる原因について考えてみる。

 

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原因を知りたい患者

 

ドクターショッピングする患者の中には「原因がわからないと言われたが納得できない」という人が一定数含まれている。

特にアレルギー外来には原因の特定を求める患者が集まっており、検査が陰性だと納得されない場合が多い。

 

さらに「原因が知りたい」と思うのは皮膚科患者に限ったことではない。

文筆家としても有名な精神科医の中井久夫先生は著書の中でこう述べられている。

人間は原因を知ると安心する。正しくない原因でも口づてに伝わってくると目に見えて落ち着く。

これは集団病理を生む危ない面もあるけれども、人間の「原因好き」をよくあらわしている。

 

人は原因を知ると安心する。その理由はなぜなのだろうか?

「成功はランダムにやってくる」という本を読むと、原因を知りたいと思う理由は進化論的に説明できるそうだ。

 

進化心理学とは?

 

ここで進化論の復習。

ヒトの歴史を振り返れば、200万年間の旧石器時代があり、農耕が始まったのはわずか1万年前。

そのためヒトの遺伝子は、まだ旧石器時代のままである。

このようなヒトの進化の過程から、体のしくみなどを解明するのが進化論である。

進化心理学の図

 

ヒトのからだが進化によってつくられたように、私たちの心や感情も進化の過程でつくられ、遺伝的にプログラムされている。

つまり感情も旧石器時代に最適化されている。

そう考えれば一見不合理に思われる人間のいろいろな感情も論理的に説明することができる、というのが進化心理学である。

 

それでは原因を知りたくなるのには、どんな進化論的な理由があるのだろうか。

 

原因を知りたくなる原因

 

人間が狩猟採集生活を送っていたころ、肉食獣に殺されるリスクに常にさらされていた。

少しでもリスクを避ける方法は、原因と結果の間につながりを見つけるよう脳にプログラムしておくこと。

 

たとえば生い茂った草をガサガサ鳴らす音が聞こえたとき。

実際には風の音に過ぎないとしても、肉食獣の音だと信じるほうがリスクは下がる。

たとえば生い茂った草をがさがさ鳴らす音が、実際には風の音に過ぎないとしても、捕食者の音だと信じる代償はそれほど大きくない。

 

つまり人間は原因と結果のあいだに直接的なつながりを見つけるよう条件づけされている。

それは進化するうえで有利だったから、

「物事が起こるのには理由があり、その理由は理解可能であるべきだ」と私たちは信じたい。

物事が起こるのには理由があり、またその理由は理解可能であるべきだと私たちは信じたいのである。

 

そして世の中に陰謀論が広がりやすいのも同様の理由である。

人間は関係ない事実や出来事の間にも因果関係を見いだし、わかりやすい解釈をこしらえてしまう傾向がある。

何が起こったかを理解したいという欲求があるゆえに、私たちはランダム性に頼った説明を受け入れられず、詳細だが捏造された説明を好んでしまうのだ。

 

正しい、正しくないに関わらず、人間は原因を求める。

「正しくない原因でも口づてに伝わってくると目に見えて落ち着く」と喝破した中井久夫先生の慧眼には恐れ入る。

 

まとめ

 

理由を知りたくなってしまうのは人間の本能。

しかし皮膚科では、はっきりと原因がわかるケースは決して多くはない。

北里大学名誉教授の西山茂夫先生は、原因がわかる症例は全体の10%程度だと言われている。

正しい診断のできるのは30%程度の症例であり、それは経験を重ねても変わりはない。原因がわかる例はさらに少なく10%にも達しないであろう。

皮膚病診療25(増2)2003 巻頭言「誤診に想う」

 

原因を説明したくてもできないのである。

しかし「原因がわからない」という事実は、患者には受け入れがたいということを理解しておく必要がある。

 

本来は「医療とは白黒はっきりしないものだ」と懇切丁寧に説明するのが正しいのだろう。

だが診療の際は、ついつい納得しやすそうな理由をお話してしまう。

 

湿疹の場合は、「摩擦、乾燥による皮膚のダメージ、汗による皮膚の刺激などが複雑に絡みあっています」なんて言うことが多い。

特に原因がはっきりしない、なんだか痒くなるという場合は、摩擦、乾燥による皮膚のダメージ、汗による皮膚の刺激などが複雑に絡みあっている、と考えられています。

診療所で診る小児の皮膚疾患

 

他に納得してもらいやすい原因はストレスである。

そのため安易に「ストレスが原因かもね…」なんて言ってしまうこともある。

 

ストレスとの関連がある皮膚疾患は多い。

たとえば円形脱毛症の原因の一つにもストレスがある。

しかしガイドラインには「科学的根拠はなく、安易にストレスとの関与を唱えるべきではない」と注意喚起されている。

円形脱毛症発症と精神的ストレスとの直接の関連性についての科学的根拠は乏しい。安易に円形脱毛症とストレスの関与を唱えるべきではない。

円形脱毛症診療ガイドライン

 

「ストレスが原因です」とは言い切らないところに自分のわずかな良心があるのだが、なかなか難しいところである。

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