中澤圭二という寿司職人がいる。
「すし匠」という江戸前鮨の名店を営み、現在はニューヨークで握っているのだという。
彼が仕事の哲学を語った書籍が面白かったので紹介したい。
鮨屋の人間力
鮨屋は対面で客と接するという点で、他の飲食店とは異なる…というのが中澤氏の主張である。
一枚のカウンターを隔ててお客さんと接するという一点で、鮨屋は他のどんな飲食店と比べてもその性格を異にしているのです。
お互いの顔色を見ているという点でも、実に人間的な飲食業だと私は思っています。
他の料理人であれば、接客をホールの人間に任せられる。
しかし寿司職人にとっては接客も仕事のひとつ。
イタリアンであれば、大将が無口な人でも、社交性のある人をホールにおいておけばいいわけですが、鮨屋はさらしだからそうはいかないわけです。
当然、良い客ばかりではなく、子どものような客もいる。
お客様が何を思っているかを汲んであげるのはこちらの仕事で、中には子どものような方もいるわけで、察知してあげなければならない。
これは医師にも共通することである。
外来には子どものような患者も多く、クレーマーの対応には日々消耗させられている。
子どものような客の言いなりになって流されるのではなく、言うべきことは言う。
中澤氏によると、そんな対応が重要なのだという。
寿司職人にとって、客のコントロールも重要な仕事ということである。
彼はこれを「人間力」と呼んでいる。
店側にお客様を見切る力が欠けていると、お客様にそのまま流されてしまいます。
うちは、こういうルールの店だよ、ということをお客様に対してちゃんと言える、軌道修正をうながせる力、つまり人間力を店側が持っていないとどんどんと流されていってしまうんです。
医師にとっても問題患者のコントロールは重要な仕事と言えるだろう。
外来にも人間力が必要なのである。
客のコントロール
トラブルを起こしそうな客を事前に察知し、あらかじめ対応しておく。
この人は酔っぱらうと、我を失うかもしれない。穏やかに飲んでいただくためには、それなりの空気をこちらが作っていかなければいけないな、などいろいろな課題があるわけです。
そのような客のコントロール法は場数で学んでいく必要があるとのこと。
我慢しすぎてもよくありません。一本針を出すことも必要なときがあります。その針の出し方、引き方は結局、場数で学んでいくことでもあるのです。
どれだけの客と接してきたか、どれだけのトラブルを経験してきたかが寿司職人の財産になる。
どれだけ多くのお客さんに接し、アドバイスを受けたり、かわいがられたり、怒られたりしてきたかが私たちの財産でもあるわけです。
同様に、どれだけのクレームを受けて対応してきたかが医者の財産になるのかもしれない。
また中澤氏が人間力を学ぶきっかけとなったのはスナックなのだという。
帰京したのを機にスナックを任されたんです。
このスナックでのお客さんとのやりとりで得たことははかりしれなかった。まさに人間力とは何かを実感したわけです。
スナックのママから学んだ客あしらい。
カウンターに立っていたのは、私と久美ちゃんと呼ばれる女性。
彼女は客あしらいがうまく、酔っぱらいを癒してみたり、怒鳴ってみたり、格好いいわけです。
我々もスナックから「患者あしらい」を学ぶことができるのかもしれない。
まとめ
診療をしていると理不尽なクレームに遭遇することもある。
いきなり喧嘩腰。何を言ってもキレる。診察後はしっかり病院にクレーム。
その一人のせいで外来診療が嫌になる。
医療業界では、問題患者の対応として「患者様の立場に立って、誠心誠意尽くす」なんて絵空事が語られることも多い。
しかし現実的には患者をどうやってコントロールするか、つまり「患者あしらい」を学ぶことが重要になるだろう。
理不尽なクレームの数々も、患者あしらいを学ぶための糧と考えれば、多少は気が楽になるのかもしれない。





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