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入院における作戦目的の二重性

 

地方の総合病院に勤務していると、軽症でも入院を希望する高齢患者が多い。

そこで誰しもこんな経験をしたことがあるんじゃないかと思う。

 

自宅で自立して生活していた高齢者が入院になる。

ところが入院後にせん妄を起こしADLが低下。あっという間に寝たきりに近い状態になってしまう。

あんなに元気だったのに…と家族からの不信感が募る。

 

このように入院治療の際には注意しておくべきことがある。

今回は入院治療について書いてみる。

 

病院は元気になるための場所なのか?

 

「病院は元気になるための場所」そんなイメージがある。

ところが現実的には、入院してキレイに治って元気になって退院、ということは少ない。

そのギャップがトラブルを生むことがある。

冒頭で紹介したようなパターンである。

 

以前読んだ本「医療にたかるな」にも、このあたりのことが書かれていた。

 

病院という魔法の箱に入れてしまえば障害も治る。そんな勘違いをしている人は意外に多いのだという。

血液疾患を抱えた80代の男性のご家族の第一声は「とにかく入院させて元気にして欲しい」でした。

「病院という魔法の箱に入れてしまえば障害も治る」と勘違いしているようです。

 

退院のときに問題が起こることもある。

「病気は治ったので退院できます」と伝えても家族が納得しないのである。

もっと元気になるまで退院はさせられない、と。しかし入院を続けてもどんどん弱っていくばかりで、元気にはならない。

 

そこから家族への説得を試みたり、転院先を探したりしたのでは遅すぎる。

最初からADLの低下を織り込んでプランを練っておく必要があるのだ。

 

栄養補給目的で入院

 

さらに医者自身でさえも、入院したら患者は元気になると勘違いしているときがある。

若い時はそんな勘違いに苦労させられたこともあった。

 

大学病院では外来主治医が入院を決めて、その後はバトンタッチして若手医師が入院主治医になる。

そこで外来主治医が「元気にするために」患者を入院させてくることがあるのだ。。

 

「最近元気がなくて食欲が落ちてきた高齢者。栄養補給目的で入院。」

 

そんな無茶な目的の入院があるわけだ。

入院主治医の自分は、点滴での栄養補給を開始したが、患者は案の定寝たきりになってしまう。

我々は、病院が元気になるための場所ではないということを理解しておかないといけない。

 

作戦目的の二重性

 

これらの問題は入院の目的が明確になっていないから発生するようだ。

病気の治療をすることと、元気になって退院することはイコールではない。

太平洋戦争の日本軍を研究した名著「失敗の本質」では、これを作戦目的の二重性と呼んでいる。

 

ハワイの真珠湾攻撃に成功した日本は、次に太平洋のミッドウェー島を攻略する計画を立案した。

 

司令長官・山本五十六の目的は、ミッドウェーへの攻撃でアメリカ艦隊(空母)を誘い出して、撃滅することであった。

 

ミッドウェーへの陽動攻撃→アメリカ空母の撃滅

 

ミッドウェーへの攻撃は陽動で、優先すべきはアメリカ艦隊の撃滅である。

ところが作戦指令として出されたのは「ミッドウェー島攻略と敵空母の撃滅」という2つの目的だった。

そのことによってミッドウェー攻略は、目的が曖昧な作戦になってしまったのである。

 

ミッドウェー攻略+アメリカ空母の撃破

 

日本軍は戦力的には上回っていたものの、ミッドウェー島の占領を優先してしまったために、肝心のアメリカ空母の撃滅は1隻のみ。

結局、この戦いが太平洋戦争の敗戦を大きく決定づけるものとなった。

 

この話は、勝利のためには戦闘の目的を明確にしておく必要があるということを表している。

これは入院治療でも同様である。

治療することと元気になることを同時に目指すのは、作戦目的の二重性に相当するのである。

 

まとめ

 

過去の経験から、なるべく作戦目的の二重性を避けて入院治療を行うことを心がけている。

もし明らかに入院が必要ない患者や、その家族が入院を希望してきた場合どうするか。

患者や家族からの要望に何でも応えて「いい顔」をしたいという願望はある。

しかし不要な入院は避けるべき。

現実的には要望をつっぱねなければならない事も多いのである。

そこで神経をすり減らす日々である。

 

さらに最近は病院の経営的に、不要だとしても積極的に入院治療を行うように指導されるようになってきた。

現在、病院のKPIは病床稼働率になっている。とにかくどんどん入院患者を増やす必要があるのだ。

さらに「退院時期をなるべく伸ばせ」とまで言われるようになってきている。

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しかしこれは患者にとってデメリットが多いだろう。

そんなジレンマに苦しめられている。

そろそろ総合病院での勤務を卒業する時期なのかもしれない。

 

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