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年をとって「となりのトトロ」が好きになった話 ジブリレビュー①

 

ジブリの代表作「となりのトトロ」。

実は子供のときはしっかり観たことがなくて、初めて観たのは学生のとき。

そのときは「毒のない平和な映画だなあ」という感想で、特に印象には残らなかった。

 

でも今観てみると、なぜかとても心に響く。

それを回りに話してみたら「年をとったからでしょ」と言われた。

別に年をとったつもりはないので、感性が磨かれたってことかな。

 

また「ジブリの教科書」というジブリ作品の解説書を読んでみると、かなり深い作品だということもわかる。

今回はとなりのトトロを読み解いてみる。

 

となりのトトロの魅力

 

トトロが出てきた時のワクワク感、トトロの動きの楽しさには、大人も惹きつけられる魅力がある。

アニメーションを見ているだけで十分に楽しめ、子どもが夢中になる理由もわかる作品だ。

 

しかしただの「カワイイキャラクターが出てくる楽しい映画」で終わらないところが、この作品の本当の魅力である。

 

自然描写の美しさ

まず特筆すべき点は自然の描写の美しさ。

解説本によると雑草の一本一本や土の色にまでこだわって作られているそうだ。

田園風景とか草花とかそういうものによっく目を向けて描いてほしい

 

光の描写にも力を入れている。

迷子のメイを捜すシーンの、時間経過とともに少しずつ色合いが変わっていく映像美は素晴らしい。

トトロの名シーン

 

さらに明るさだけではなくて、子供のときに感じていた自然に対する漠然とした不安、怖さみたいなものも描かれていて重厚である。

トトロのバス停

 

自然の美しさだけではなく「怖さ」も描くことが宮崎駿の目標だったようだ。

「こわい」という気持ちが、日本人にとってはある種の森とかそういうものに対する尊敬の念なんですね。

 

人物描写

また解説本を読むと、何気ないシーンも考え抜かれて作られていることが分かる。

たとえば母親がサツキの髪をとかす場面。

となりのトトロの図

 

メイと違ってすぐに寄っていけないサツキ。

そこでメイを待たせて髪の毛をとかしてあげることで、母親はサツキをささえている。

サツキが病院にお見舞いに行ったからって、抱きつくわけにはいかない。ちょっと恥ずかしくってすぐ寄って行かないのが、もっともなんです。

メイは抱きつけるんですね、まだ。

そうするとサツキのおふくろさんはどうするだろう…たぶん髪の毛でもとかしてあげるんじゃないかな。

それが実はサツキを支えているんですね。

 

こういう細かいリアリティの積み重ねが「となりのトトロ」を形成しているのである。

子供向けだからといって手抜きしない作りこみの細かさを知って、この作品がさらに好きになった。

 

となりのトトロの裏設定

 

「となりのトトロ」は一見すると、昭和30年代の日本を美化し、高度経済成長に対する批判を描いた作品である。

しかしただ昭和のノスタルジーを描いただけではない奥深さが隠されている。

 

この映画をみて「昔の日本はよかった」「今の子供はかわいそうだ」と言う人を、宮崎駿は否定している。

昭和30年代もすでに自然は破壊されているんだ、と。

懐かしいって言われたときにいちばんムカっとくる。

「いまのこどもたちがかわいそう」っていう言い方が気になるんです。自然破壊は何世代にもわたってずーっと経験してきているんです。

 

この作品には、懐古主義陥り安易に「美しい自然を守ろう」なんて言う人たちへの皮肉も込められている。

昭和の田園風景は、原生林を破壊して作られた人工の自然。

今の日本人が自然を語る時、50年前はもっと豊かな自然があったと言いますが、実はその50年前の自然もさんざん木を切り別な木を植えて作った自然なのです。

ジブリの教科書「もののけ姫」より

 

縄文時代の日本には照葉樹林が分布しており、縄文人は森と共存して暮らしていた。

トトロはそんな原生林に住む精霊である。

 

しかし気候の変化と、大陸から渡来した弥生人の農耕によって原生林は徐々に失われていく。

そしてトトロ族も弥生人たちによって滅ぼされ、そのわずかな生き残りが今もひっそりと暮らしている。

かつてこの世には、たくさんのトトロ族がいた。彼らは人類と戦って滅ぼされたが、その生き残りがいろんな時代に登場する。

トトロはそういう歴史を背負っている存在なんです。ただかわいいだけの生き物じゃない。

ジブリの教科書「風立ちぬ」より

 

「となりのトトロ」には、「安易に自然を守ろうなんて言えないよ」という隠れたメッセージが存在するのである。

このテーマがその後「もののけ姫」に引き継がれていく。

 

まとめ

 

子どもが楽しめる作品だが、大人向けのメッセージも含まれている。

そんな重層的な構造が「となりのトトロ」が名作たる所以である。

噛めば噛むほど味が出る深い作品なのだ。

 

そんなトトロも映画の興行収入は振るわず、公開終了1年後のテレビ放送くらいから人気が高まってきたそうだ。

ジブリ映画興行収入ランキング

①千と千尋の神隠し      308億

②ハウルの動く城       196億

③もののけ姫         193億

④崖の上のポニョ       155億

⑤借りぐらしのアリエッティ  92.5億

 

⑯となりのトトロ/火垂るの墓  5.9億

⑰天空の城ラピュタ      5.8億

 

興行収入は同時公開の「火垂るの墓」と2本合わせても5.9億で「千と千尋の神隠し」の1/50。ジブリ映画の中ではワースト2である。

長く残る、本当に良いものは認められるまでに時間がかかるのかもしれない。

 

今後ジブリ映画や関連書籍のレビューを書いていく予定。

次回は紅の豚。

つづく

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